チューリヒ便り

スイス最大の都市チューリヒといえば、時計、オルゴール、チョコレートあるいは銀行や保険会社あたりが話題になる。しかし、リマト川ジール川にはさまれた中心市街地をちょっと離れてチューリヒ大学のあるあたりからホッティンゲン地区へ足を踏み入れると、うっそうと葉を茂らせた大木が生い茂っているのに目を見張らされ、これもまたえがたいチューリヒ体験といえるのではないか。古代にはドイツは一面森だらけで、森を切り開いて今日の国土が形成されたと歴史の書物は説く。ゲルマン民族が森の民ともいわれる所以である。シュヴァルツヴァルトやチューリンゲンの森などに古代の手つかずの森が残されているが、チューリヒの樹木もその名残にちがいない。大木の茂みが都市近くにまで迫っている光景は、チューリヒのもう一つの顔として驚嘆に値する。
 
手元に《Baum-Album der Schweiz》という表題の写真集がある。Baumはバウムクーヘンのバウムで樹木の意味、スイス各地の立木の写真を集めたアルバム。判型は67cm×51cmの大判のため、書架には収まらず、それに目方を量ったことはないが、まさに木の塊のようにずしりとくる重さ、正直言って、もてあまし気味ではあるものの、手放すわけにもいかないのは、このアルバムのもつ呪縛の力のせいだろう。1896年にベルンで刊行されている。編纂したのはスイス内務省林業課となっている。モノクロームの写真でアンティークの感あり。まるで樹木のような存在感のこの一書にもスイス人の木に寄せる思いが凝縮されているように思われてならない。チューリヒの木々への我が思いはこのアルバムとつながっている。綴じ本ではなく、写真が一枚ずつバラになっているので、額縁に入れて飾ることもできる。右の写真はテッシン州で撮影されたカスターニエ(マロニエ)の樹。





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