●ウィーン14区の西端に位置するヒュッテルドルフ地区は、都心からは隔たった辺鄙なところといった感があるけれど、それだけウィーンの森の無垢な自然が残されている。このあたりの目玉はなんといってもウィーン幻想派の画家エルンスト・フックスの旧邸宅。巨匠オットー・ワーグナー設計によるアール・ヌーヴォーの建築はまるでメルヒェンのような佇まいだ(今日では公開されている)。
*都心からはトラムの49番を利用、終点で降りる。乗り換えの労をいとわなければ、地下鉄のU3でHuetteldorferstrasseまで行き、49番のトラムをつかまえることも可。
●フックス邸自体はたしかにガイド・ブックに記されていても、近辺の森の佇まいについては言及がない。大都市ウィーンの縁飾りをなす樹林の、春から夏にかけての緑陰や、秋の黄葉のすばらしさは一見の価値あり。晴れた昼下がりにでも、かさばる観光案内書は鞄にしまって散策したい。高層の集合住宅はなく、別荘風の家屋がほとんど。序でに足を伸ばして、ワーグナーの代表作であるシュタインホーフの礼拝堂やクリムトの生家も見て回れば、ウィーン・ユーゲントシュティールを巡るとっておきのテーマ旅行となろう。ほかにも、若き日の哲学者ヴィットゲンシュタインがこの地の修道院に住んでいたというし、シッシーこと皇妃エリーザベトの孫のエリーザベトが晩年を過ごした旧宅もあり、興味つきないエリアである。
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