ドイツ的デザインを眺める

 いまドイツのデザインに熱い視線が注がれている。クルマに代表される大型の工業製品から生活雑器まで、その領域は広範囲にわたる。性能や機能性はいわずもがな、無駄のない、しかし愛着のもてる意匠こそその身上と見受けられる。ドイツ的デザインの神髄とは、一時的なブームとしてもてはやされるような派手さや奇抜さにあるのではなく、いつまでも飽きが来ない堅実な形にこそあるのではないだろうか。言語と同様に、デザインの分野でも血縁性の強いオーストリア、スイスも含めてドイツ語圏3か国のデザインを眺めるぶらり旅を試みる。
編みっ娘(こ)ベルベル
編みっ娘(こ)ベルベル
編みっ娘ベルベルStrick-Baerbel)は、簡単な編み物ができる器具、というよりもむしろこけしのような玩具の趣。Baerbel、つまりバルバラちゃんというかわいい名前が付いているのもほほえましい。これでも、針山や花瓶敷きやエッグ・カバーが編めるのだ。ほんらいは女の子のための教材なのだろうけど、インテリアとして飾っておけるのがミソ。メルヘンのような形といい、配色といい、ドイツ的デザインの片鱗はこんな小物にもよく表れている。手抜きのないのがドイツ的デザインの特性である。
スイス的ピンセットとは?
スイス的ピンセットとは?
ピンセットは松葉のような形をしているにきまっているが、スイスRUBIS社のハサミの形をしたものはユニーク……こんなピンセット見たことなかった!松葉形の通例のものは、対になった松葉を鋼の剛性に抗してしばらく保持していると、指が痛くなってくる。ハサミ形は余分な力もいらず、指が疲れないので、作業がよほど楽である。発想を変えれば、ピンセットも快適な道具に変身するのだ。
ファーバー・カステルのボールペン
ファーバー・カステルのボールペン
ドイツの筆記具もまたベスト・バイである。六角形の雪の結晶マークがついた万年筆を誇らしく愛用されている御仁も多いかと忖度する。Faber-Castell社の万年筆やボールペンも負けてはいない。同社の伯爵シリーズからスリムなボールペンが出ている。軸がキャップに格納された状態でほぼ9cm。手帳のペンホルダーに差し込むのにうってつけのサイズであるばかりか、伯爵の名に恥じぬ気品が漂っているのはさすがである。ただし、ノブを押せばペン先が出てくるノック・ダウン式のお手軽さとは無縁で、使用時ははずしたキャップを軸のお尻にねじ込むというタイプ。〈伯爵〉には手間暇がかかるのだ。
クルミ割り王
クルミ割り王
チャイコフスキーのバレーでお馴染みのクルミ割り人形。儀仗兵の立像が定番であるが、ほかにもさまざまのフィグアが作られている。ここで紹介するのは、ずんぐりとメタボ体型の、白い歯をむき出しにした王様のタイプのもの。ドイツの木製の玩具は、鳩時計をはじめ定評があるが、いずれもドイツの深い森から生まれた特産品である。造形感覚と塗りの色彩感覚には独特の味わいがある。チェコとの国境に近いエルツ山地からやってきたこの王様、クルミを割る歯の部分がなんともいかめしく、この世の悪を片っ端から噛み割ってくれよう。出番はクリスマスだけではなく、ふだんも魔除けとして飾っておけるのだ。
ツァイスのルーペ
ツァイスのルーペ
視力が衰えてくると無くてはならない机上の友――それがこの拡大鏡。細かなドイツ文字の辞書を見るときには、これが手放せない。CARL ZEISSといえば、顕微鏡やカメラの世界では、垂涎の名前であり、何よりも容易に手に入らない。ライセンス生産されているS社のミラーレス用交換レンズは、カメラ本体よりも高価……というよりも、品薄でそもそも入手が困難なほど。しかし、手頃な値段のこのルーペなら、ブランドの光学製品を所有できる。ツァイス=トリオターのレンズは、一点の曇りもない明澄な視野を与えてくれる有り難い存在、なによりもドイツ的なデザインに信頼感を抱いてしまう。たかがルーペ、されどツァイスなのだ。
ウィーンのバラ
ウィーンのバラ
名窯アウガルテンの代表的な逸品。もともとはマイセン窯の流れをくむものの、すでにすっかりウィーンのデザインを確立している。ポイントはなんといっても優美な一輪のバラ。販売元のキャッチ・コピーは〈シューベルトの野バラ〉とうたっていて、まさにウィーンの生んだ歌曲王のメロディーが聞こえてくる気分。晴れの日も雨の日も朝一番に、〈ウィーン気質〉の神髄があらわれたようなこのカップでまろやかなカフェを味わえば、至福の一日が始まろうというもの。
 
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Last updated: 2013/3/8