ミラベル庭園にて


 
 
●庭園はヴィオットロが見られる格好の場所。庭園のいわば骨格をなしているのが散策路で、庭園の魅力の大きな部分であるといえよう。庭といえば、真っ先に連想されるのがザルツブルクのミラベル庭園。ミラベル宮殿に付随する庭園である。ザルツブルクを訪れた旅行者なら一度は立ち寄るところ。また、映画《サウンド・オブ・ミュージック》でロケがおこなわれている。ミラベルは、どちらかといえばフランス式庭園で直線のパスが主体。ヴィオットロのイメージとは違うけれど、折れ曲がりながら歩く楽しさという点ではヴィオットロに付け加えたいところ。
 
●園内に入る前に、まず入り口で鉄格子の素晴らしい門扉が私たちを出迎えてくれる。20年以上前にここを訪ねていって、ようやくこの扉と対面することができた。上の写真はそのとき撮影したもの。
 
●私とミラベル庭園との出会いは、中学生時代のLP愛聴盤の一枚、モーツァルトの管弦楽曲を集めたLPレコードである。往年の名指揮者ブルーノ・ワルターがコロンビア交響楽団を振ったモーツァルト・メドレーのディスクで、《フィガロ》《魔笛》等オペラの序曲や《セレナーデ=アイネ・クライネ・ナハトムジーク》、それに《フリーメーソンのための葬送音楽》といった本来なら割と珍しいものまで入っていた(私には珍しくなかったというわけである)。このレコードには、《ミラベル庭園にて》という心憎いタイトルが付いていて、ジャケットの写真には白黒ながらまさしくミラベル宮殿を左に、遠くにホーエンザルツブルク城を望む庭園が広がっていたのである。
 
●そのジャケットの裏面に庭園についての解説があり、四大を表すギリシャ神話のモティーフによる石像が点在して、といった説明に続いて、この鉄格子の門扉に触れられていたことが私の頭の中に刻み込まれている。引用は正確ではないけれど、「鉄格子の優美な模様が世紀の夢を夢見ている……」といった具合に書かれていた。モーツァルトの音楽もさることながら、この鉄格子の扉云々の文章も子供心に大きな夢を与えたことは間違いない。
 
●このレコード、残念なことに手元にはもう存在しない(時代はLPからCDへとすっかり変わってしまったこともあり、その後なんどか引っ越しをしたこともあり……)。納められているワルターの演奏はそのまま、タイトルも同じでCD盤になっていて、今でも聴けるけれど、中学生のときに篤い思いで聴いたあのディスクではない。宇野功芳氏の『名指揮者ワルターの名盤駄盤』(講談社+α文庫)の口絵写真に取り上げられているので、往時を偲ぶことができる。この写真は、まことに懐かしい過去との出会いの一枚である。




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