2008/9/23
ガイドブックにないウィーン




ハイリゲンクロイツァーホーフ(Heiligenkreuzerhof:Wien 1, Schoenlaterngasse 5― Grashofgasse 3)
●ウィーンのみならずヨーロッパの人たちは、とりわけ都市部ではほとんどが集合住宅に住んでいる。つまり彼らのWohnung(住まい)はアパート、マンションということ。カタカナのロの字やコの字の形をしたHausの真ん中は中庭(Hof)になっていて、ゴミ収集のユーティリティーとして使われていたり、また樹木が生い茂り小鳥たちがさえずっていたりする。ウィーン名物の黒歌鳥もやってくるのだ。Hofは原則として部外者は立ち入り禁止の内密な世界。しかし、例外的に公開されているところもある。ウィーン市内ではハイリゲンクロイツァーホーフが数少ない例。
●こうした通り抜けができる家屋はドイツ語でDurchhausと呼ばれる。ハイリゲンクロイツは〈聖なる十字架〉の意味。もともとここは、ウィーン南郊にあるハイリゲンクロイツ修道院の所領地で、修道院長の居宅と礼拝堂があったとされる。ウィーンの森に抱かれたこの〈名刹〉は、ロマネスク、ゴシック様式の混在する見事な建築群で、近くにある皇太子ルドルフ情死の場所となったマイアーリングの狩猟館とともに、一見の価値あり。ここにはキリスト磔刑の十字架の一部が聖遺物として奉納されているといわれているので、それに由来する〈ハイリゲンクロイツ〉は実にありがたい名前ということになる。
●シュテファン寺院からも歩いてすぐ近く、石造りの建物が林立する旧市街にまるで林間空地のようにぽっかり空いた別世界。ここに来れば、身近に〈中庭〉が体験できるのだ。
 
 
●この物静かな空間に立つと、中庭に面してたたずむ、聖人ベルンハルトに捧げられた礼拝堂と、そしてその右隣の、嘗ては大修道院長の住まいとなっていた建物を後ろにひかえたバロック風の正面ゲートが目に留まる。かつて詩人ホーフマンスタールが「鉄格子細工と石でできたモーツァルト」と讃えた鉄の扉が、この威風堂々のポータルから失われてすでに久しい、と聞く。それでも、門柱の上で戯れるプットー(童子)たちが往時を偲ばせる。ちなみに、ベルンハルト礼拝堂は、今日ウィーンで結婚式を挙げたい教会のナンバーワンのひとつだそうである。
Q:ところで、ウィーンで挙式したいナンバーワンの教会のなかでも、トップはどこか?――正解は、ブルク礼拝堂(Burgkapelle)。毎週日曜日にウィーン少年合唱団が〈天使の歌声〉を聴かせてくれるあ・そ・こ!
ヴェアートハイムシュタイン公園(Wertheimsteinpark:Wien 19, Doeblinger Hauptstrasse 96)
●ウィーンの森近く、市内屈指の高級住宅地を控える19区の入り口近くに位置する。昔風に言えば、〈郊外〉に属するこの地区も今では都心から地下鉄であっという間の距離。U4のハイリゲンシュタット駅から少し都心寄り。
●この地の歴史は古く、12世紀にまでさかのぼるという。現在の公園の形ができあがったのは19世紀になってから。ハプスブルク家の貴族に連なるヴェアートハイムシュタイン公が邸内を整備し、公の瀟洒な邸宅(Villa)はウィーンでも有数のサロンのひとつとしてにぎわった。事実、文人ザールやカイムの記念碑が庭園内に見られ、サロン華やかなりし古き良きウィーンが偲ばれる。
●園内に点在する樹木が青々とした芝生の上に居心地の良さそうな緑陰を落としていて訪れる者の目を慰めてくれる。いつも人影まばらなことも魅力的。ベートーヴェンの《田園》の散歩道はここからはすぐ近く。ベートーヴェンの足取りとホイリゲを目指しての気ままな散策には好都合な出発地点。昔、最寄りのトラムの停留所そばにあった肉屋で買い求めたハム・パン(Brot mit Schinken)を園内の芝生の上でほおばったのは〈美味な〉思い出。

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