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Servus考

オーストリア・ワイン見つけた!

我が町の酒屋に、ドイツ・ワインは数多く取りそろえてあっても、オーストリア産やスイス産はめずらしく、限られた銘柄のものをたまに見かける程度である。なかんずくスイス産はことのほか厳しい。宝くじに当たる確率とはいわないまでも、滅多にお目にかかれるものではない。よく耳にする話では、スイス国内で醸造されたワインは国内でほとんどが消費されてしまい、輸出にはまわらないのだという。さもありなん。スイス・ワイン(特に白)は、すがすがしく、そして舌の上で転がるような、まことに絶妙な味わいなのだから。オーストリア産のほうがスイス産よりはいくぶん遭遇できることが多いようだ。
 
以前、市内の某酒店で〈SERVUS〉という銘柄のオーストリア産白ワインが手に入いり、にわかに色めき立ったことがある。産地はBurgenland州とラベルに記されてはいるものの、正確な産地(Ort)は不明。瓶詰めはKrems近郊(Niederoesterreich州)の醸造所とあるので、正体を特定できないけれど、オーストリアからやってきたことは間違いない。早速、味見をしたところまろやかな辛口(trocken=dry)で、freundlichだった。ついでに、「最近は酒をやめている」というときにもtrockenを使う。ラベルには〈SERVUS zum Kennenlernen〉とも印刷されている。「まずはお近づきのご挨拶」といったところか。このワインとの初対面は悪くなかったのである。
 
甘口(suess)が多いドイツ産ワインとは対照的に、スイスやオーストリア産は辛口が主流。いずれも白(weiss)が美味しい。オーストリア産は値段も手頃で、好感がもてる。しかし、オーストリア・ワインで最も歓迎すべきは、焼きソーセージを売っている屋台で飲ませる安酒で、オッサンが一升瓶みたいなジャンボ・ボトルから注いでくれるグラス一杯が妙に美味なのだ。廉価で美味、これほどいいことはないではないか。この種の瓶(Flasche)はコルクではなく、金属の王冠がついているのも一大特徴。けれど、こればかりは現地に行かないと手に入らない。
 
ところで、〈Servus〉というこの言葉、親しい間柄で交わされる挨拶の言葉で、南ドイツ、オーストリアでもっぱら使われる。ひとまず「こんにちは、やあ」にあたるといえるが、ややこしいのは別れ際にも用いる点で、日本語感覚では考えにくい。しかし、欧米の言語ではよくあること。そもそも「こんにちは」の標準的な表現である〈Guten Tag!〉は「行ってきます、行ってらっしゃい」と別れの挨拶にもなるので、同類なのだ。バイエルン・オーストリア系のGruess Gott、イタリア語のCiao!、ハワイの人たちのAloha!もまたしかり。〈Guten Tag!〉とは、要するに、出会ったときも、別れ際も相手に〈良き日を(guten Tag)〉祈るということなのだ。〈Servus〉は、もともと「召使い」を意味するラテン語からきている。英語のservantserviceも同根。「私はあなたの召使い」といった恭しい気持ちの表明が底にあるようだ。
 
Servus〉の発音は独和辞書には発音記号で[zervus]と表記されている。しかし、南独やオーストリアでは濁音のSは清音で発音されるので[セアヴス]という表記が実情にあっているだろう。語頭に強勢のある[ゼアヴス]なる発音は現実からは遠いのだ。辞書にはそうした配慮も必要ではないだろうか。実用外国語を標榜するのであれば、教える側もそこまで踏みこまないと……。〈Servus〉はアクセントも語頭にはなく、むしろ語尾を強めて発音する傾向もある。かつて、ウィーン大学に遊学中、学食(Mensa)でスープ(Suppe)を注文するときに、標準ドイツ語発音のように語頭にアクセントを置いて[ズッペ]と発音しても、カウンターの向こうのオバチャンにはどうにも通じにくかった。[スッペー]のように語尾にアクセントを置けば一発で通じるのだった。似通った話ではある。ことわっておくけど、ウィーン大学本館内の学生食堂のスープが「酸っぱい」というわけではない(笑)……念のため。
 
ああ、あの脂ぎったコンソメ・スープにセンメル(Semmel)というプチ・パンが一個あれば、主菜がなくとも軽い昼食になった、あの時代が懐かしい!




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